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八幡浜簡易裁判所 昭和43年(ろ)10号 判決 1969年2月28日

主文

本件公訴はこれを棄却する。

理由

(一)本件公訴事実の要旨は

被告人は

一、松本シズヱがかねてより被告人との間で境界について紛争中の松本篤昇外二名所有の愛媛県西宇和郡三瓶町大字下泊二八九番地の宅地とこれに隣接する被告人所有の同所二九〇番地の畑との境界附近にコンクリートブロツク塀(長さ約三二メートル、高さ約一メートル)を築造したところ右塀は被告人所有地内に築造したものであるとして憤慨し昭和四三年五月一四日午前九時ころ右松本シズヱ所有の塀をハンマーで叩いて長さ約六メートルにわたつて右塀のブロツク約四二個を崩壊させ、もつて他人の器物を損壊し

二、次で前記松本シズヱ所有のコンクリートブロツク塀は前同様被告人所有地内に築造してあるとして憤慨し同年七月一五日午後五時ころ右塀をハンマーで叩いて長さ約五メートルにわたつて右塀のブロツク約八四個を崩壊させ、もつて他人の器物を損壊し

たものである、というのである。

(二)弁護人の主張に対する判断

弁護人は本件ブロツク塀は土地の共有者松本政男からの送金等により同人の妻松本シズヱが築造したものであるがブロツク塀は土地の従として附合せられたものであるから民法二四二条の規定により右ブロツク塀は附合により右土地の所有者松本政男外二名の所有に帰属するものというべきである。ところで本件は告訴を待つて論ずべき罪であるところ本件告訴は右土地の所有者でも賃借人でもない松本シズヱからなされた告訴はあるが同人は共有者の一人松本政男の妻というだけであるから本件器物損壊罪については告訴権を有しない者のした無効の告訴であり従つて本件は訴訟条件である告訴を欠ぐ案件であるから公訴提起の手続がその規定に反したため無効である場合にあたるものというべく公訴棄却の判決をなすべきものであると主張するのである。

よつて案ずるに(本件告訴は弁護人の主張をまつまでもなく訴訟条件であるから職権で調査すべき事項)刑法二六一条所定の器物損壊罪は親告罪であり同罪につき告訴権を有する者は損壊された物件の所有権者のみであつてその物件の単なる所持人や使用権者はこれにあたらないと解すべきである。そこで本件ブロツク塀が松本シズヱの所有に属するか否かを審究するに被告人所有の西宇和郡三瓶町大字下泊二九〇番地と松本政男外二名所有の同所二八九番地との境界については数一〇年前から紛争中のところ昭和四二年一二月初旬に至り被告人と共有者の一人松本篤昇間に右境界につき合意が成立し即日松本篤昇、松本シズヱらにおいてブロツク塀を築造したものであるが右ブロツク塀は弁護人主張のように築造者が何人であろうと土地の従として民法二四二条の附合の規定により土地(建物)の共有者松本政男外二名の所有に帰属するものといわなければならない。すなわちブロツク等の動産がブロツク塀の完成により土地と不可分の一体をなしその構成部分となつたときは従物であるブロツク塀はもはや独立性を失いその所有権を保留することはできないからここに附合が成立し同条但書適用の余地がない。通説判例は分離復旧の困難(本件ブロツク塀は分離復旧不可能とみるべきである)ないし社会経済上の損失の要件にかないながら不動産の構成部分とならない程度に動産が附着した場合に但書が適用されると説く。そして但書にいう権原とは地上権、永小作権または賃借権等を指称するもので単なる所持人、使用権者はここにいう権原にあたらないものと解する。従つて告訴人松本シズヱはブロツク塀の事実上の築造者であつてもほんらいその夫である松本政男の所有たるべきものではあるが本件土地は右松本政男外二名の所有であるから民法二四二条所定(強行規定)の附合により右共有者三名の所有に帰属することは明らかであり従つて松本シズヱは右物件の所有者ではなく単なる所持人(占有)ないし使用権者であるに過ぎないものであるから告訴権を有しないものと解するを担当とする。(結局本件告訴権者は右共有者三名であつてそのうちの一名からする告訴の有効であることもちろんである)

仮りに賃借権者にも告訴権ありとする見解に従つたとしても松本シズヱは賃借権者でも地上権者でもない単なる所持人、使用人であるに過ぎないこと前段認定のとおりであるから結局右と結論を同じくするものである。(単なる所持人、使用権者に告訴権がないとすること判例である)

以上の次第であるから松本シズヱのした本件告訴は告訴権を有しないもののした告訴であるから本件公訴提起はその規定に違反したため無効であるといわなければならないから刑事訴訟法三三八条四号により本件公訴を棄却すべきものである。

よつて主文のとおり判決する。

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